憂鬱の憂鬱

窓が1つある

退屈が空に浮かんでいる

飛行機が流れてる

こぐ自転車

このペダルの重みしかまだ知らない

夜は何ものからも独立した生き物であたたかい

なにものにもならないと願った日から数えて

遠い星になってしまったわたしは

また、あの日のあの部屋にもどろう

夏めいた記憶

日常を切り取るということは

どういうことなのか?

それは、記憶とどこが違うのか?


車の後部座席にいる。

夜の街並みが流れ過ぎて消えていく。


「何も見つからなかったぞ。レポートにそう書くぞ。」


石動は助手席に乗っている。


「あなたは、かの妖精と真摯に向かいあっています。無為に時間を潰していたわけでない。

佐々木さんには、僕からしっかりとお伝えさせていただきます。真面目なあなたの態度に心を打たれた今日という1日が最後にひとすじの幸福をもたらすこともあるかもしれません。」


運転している女性は、石動の知り合いらしい。今日いちにち彼女と口を聞くことはなかった。

なんとなく、話しかけることが不適切な行為のように思われたからだ。


シートにもたれていると

少しの間眠りに落ち、夢を見たようだ。

火災が起きている現場を鳥になって俯瞰している、心地の悪い夢だった。


「では、また明日、学校で」


食事は済んでいて、ベッドに迎えられると再びすぐに眠りがやってきた。


「夏までまっていろ」

声が聞こえる


「夏までの季節は無駄そのものだ。」


灰色に塗りつぶされて酸素を取り込めなくなっていくような気がして仕方がない


これは夢をなのだ

安心しろ。目を覚ませば。変わらない朝が来る。昨日と代わり映えのない今日だ。


2月と3月をつなぐトンネル

冬の将軍と、春風ちゃんが上空でバトルを展開してる。

一進一退。

花が咲きはじめる季節の到来。


願いは、春風ちゃんのカムバックアゲイン。

寒いのはもうこりごりだ。


学校の食堂で、1人の男子生徒に食後のデザートをおごってもらっている。

といっても、ぶどうと野菜混じりのスムージーが目の前においてあるだけだが。


「佐々木さんから、お話があったかと思いが、まあ、僕に大役の白羽の矢が立ったということですね。

石動 リョウと申します。よろしく。」


握手を求められた。その右手に剣は持っていないというサインか。


「どうも。まあ、何というかお洒落な食堂だな。カフェテラス。女学生と2人で語り合いたいな本来ならば。」


如才なく微笑み、少し誇らしげに胸をはっているハンサムで目立つ男とはあまり長時間共にいたくないが、慣れる必要があるな。


「自分の通っている学校の設備を褒められるとやはりそれなりに嬉しいものですね。」


「ところで、俺には、2人分の前世があるんだってな。転生は3回目だとか。」


「そのとうりです。

まあ、前世というか、我々はパラレルワールドに迷い込んだ住人のような者だと、そう言ってしまった方がしっくりくるのかもしれません。あなたは、この街で暮らしていて何か自分がこの街に惹きつけられていると感じることはないですか?僕はあります。」


「ん?そうだな。初めて訪れる場所だが、妙な懐かしさを感じることはあるな。正直なところ。」


「僕もそのような印象をもっています。

実は僕もあなたと同じ転校生なのですよ。

そして、いまはたまたま高校生としてこの世界に存在していますが、あなたの過去の2回のシークエンスは、同じ属性ではありません。」


頭大丈夫か?正気か?SFの読みすぎですか?

怪訝な表情はそのまま石動に伝わってしまったようだ。



「僕は至って正気ですよ。

精神疾患でも、ないのでご安心を。

そうですねえ。

1回目のあなたは、大きな地震が起こった時、崩れた建物の中で亡き人となりました。

2回目のあなたは、暗殺されてしまたようです。言ってはマズイことをニュース番組のゲストとして出演した際に口外してしまったようです。誘導されて口をすべらせてしまったのかもしれません。


公式の記録ではそういうことになっております。


事実確認をしたかったのですが、残念ながらあなたは過去の記憶を引き継がれてはいないそうですね?」


「そうさ。俺という存在は、思春期まっただなかの健全な一男子高校生さ。だまっていれば、アンタもそうみえるよ。」


石動は吹き出した。


「ふふっ。これは。これは。褒め言葉として受け取っておきましょう。

さて、

今日の放課後、僕たち2人は我々のクラブの部長であるところの佐々木さんから呼び出しを受けております。

そして、ひとつの指令を受けることになるでしょう。

僕、石動はあなたのフォローをさせていただきます。」


石動は、片手を上げて別れの挨拶をすると、自分の所属するクラスの教室の方角へと消えてしまった。なんでも次の授業では、演劇の主役を務めているのだとか。

最後に死ぬほどどうでもいい情報を与えてくれた。

というか演劇ってどないなカリキュラムやねん。


古典の授業のあと、音速で放課後がやってきた。


「アンタたち2人で次の土日にデートね。

土日の間にムータロウ=トロールの手がかりを見つけなさい。その名前に覚えのある人間でも、動物でも、聞き取り調査を行うの。

これは採用テストよ!月曜日にレポートを提出すること!」


冗談だよな?おホモだち一直線かよ。

レポートってなんだよ!




決断

いつも、ハーブや野菜を庭で育てている建物がある。

その二階に、間借りしている部屋がある。

とても、美しい年の頃30くらいの女性が、グリーンの園から挨拶をしてくれる。


階段を上がり、部屋に入る。ベットに横になり、喫茶店での話を反芻する。


名前は、佐々木きょうこ

という。

俺をこの生活に引き込んだ少女である。

なんとか団とか結成しそうな爆走している存在。

髪は、短くしてからの方が好きだ。


彼女のいうままに、俺は通学時間が変則的な学校に新しく通うことになった。


そして、ソフトボールの授業のあと、市営のグラウンド近くの喫茶店に入り、

ある話を聞いた。


「これから、大切な話をするわ。集中して聞きなさい。そして、考えること。まずは、、、」


この店、BGMがいささかアグレッシブすぎないか?情熱的で、今にも踊りたい衝動に駆られるサウンドだ!

落ち着いて話をするには、BGMがラウドかつエモーショナル過ぎる」


窓からのぞく爽やかな青い空とは裏腹に、魂のこもったサックス旋律やら打楽器のリズムが、俺の心に迫ってくる。


「そうかしら?

ま、いいわ。少しボリュームを下げてもらうから。」


コーヒーを飲んだせいもあるのか、俺は心臓が誰かに揺さぶられているような心持ちだ。


佐々木きょうこは、

3枚の写真をテーブルに並べた。


「この3枚の写真に何か心当たりは?」


1枚は、ヒゲを生やした目の大きいオヤジの顔である。シワが深く刻まれた偏屈そうな顔をしている。アジアン雑貨の店で、タバコを吸いながら暇そうに日常を過ごしているような雰囲気を感じた。


「分からない。知らない顔だ。サボテンのTシャツは似合ってる気がする。」


「そう。では、2枚は?」


カラフルなアイスを片手に、会心の笑み浮かべる小学生低学年の女の子。ツインテールは伊達じゃない。


「10年後が楽しみだ」


「ふん。じゃあ最後のは?」


やたらスタイルの良い御御足の長い、ハンサム顔をしたナイスガイ。ニコニコスマイルで乙女たちをかどわかす、こういう輩は。


「メンズモデルっていうのか?こういうの。爽やかな顔して裏でなんかやらかしてるだろコイツは。」


「どうやら、本当に何も覚えてないようね。

3周目のアンタは」


3周目?


「アンタは2回死んだわ。志半ばにしてね。どんなバカでも3度目の正直ってものは、あるかもしれない。だから聞きなさい」


くるくると髪をいじりながら、佐々木きょうこは言った。

なんでもないことのように。


「私たちのクラブの目的は、ムータロウ=トロールという妖精の秘密を解くことなの。


13番目の季節に、わずかな時間のみムータロウ=トロールは存在を許される。

そいつを捕まえて、拷問にかけて、

秘密を聞き出すの。

成功すれば、私やアンタも、もうちょっとだけマシな人生を楽しめるのよ。


そして、アンタは私たちのクラブの入会届けにサインした。だから、アンタはここにいる。」


曖昧だが、俺にはサインをした記憶がある。目の前にいる美少女女子校生と少しでもお近づきになりたかっただけかもしれない。

でも、3周目ってなんだ?


「穏やかな話じゃないな。

その秘密の持ち主

恥ずかしがらないでこっち向いて❤️

みたいな感じの北欧神話だかなんだかの妖精のことか?」


「そんなヘンテコな歌は知らないわ。

でも、ムータロウ=トロールは生まれては

すぐに消えていく儚い存在なの。

それを感知できる能力をもつ者は、この世界の少数派。アンタにもその力がある。だから勧誘したのよ。」


「能力ってか?

この俺が?

で、その話とそこの3枚の写真になんのつながりがある?

だいたい見つけろって言われてもどんな容姿をしてやがるんだ?その妖精さんは。」


「見た目は、安定していない。ムータロウ=トロールを探し出すには、まずは感じるしかないの。3枚の写真は、過去のアンタが見つけ出したムータロウ=トロールへと繋がるための鍵よ。それを生かす事ができず、諦めの境地に至ったアンタはこちらの世界で死に、もとの日常へ帰っていった。でも、諦めきれずにまたここへ戻ってきた。」


「まったく記憶はないし、信じることもできかねるが、まあ写真について詳しく教えてくれ。」


「1枚目の写真のオヤジは、詩人で哲学者でアナーキストでもある。アンタが迷っているときにアンタの前に現れるアンタの同士よ。」


「アナログレコードでも売りつけて来たりするのか?」


佐々木は、自分の興味外にある文言には、無視する戦略に切り替えたらしい。

頭の中は次の写真のことにうつっているみたいだ。


「2枚目の写真、アンタは誤解してるけど、

問題にしてるのは幼女ではなくアイスクリームの方。そのロゴをよく覚えておきなさい。他人の幼女趣味に対してとやかく言うつもりはないけど、注目すべきは、そのアイスクリームの方。

ひどく、自分が頼りない存在だと思えるとき、そのアイスクリームを見つけ出して食べなさい。真冬で凍えそうな時でも口に入れること。そうすれば、エネルギーに満たされて、ことが上手く運ぶようになる。」


回復アイテムか。俺のエネルギーゲージはどのくらいあるのか?

ものごとが割とすぐにどうでも良くなるタチなんだが俺は。


「その堪え性のないところが、アンタの敗因なのよ。

過去のシークエンスにおいてね。

3枚目の写真のヤツは、私たちと同じクラブの副部長に今は就任している。いつも近くにいる。

アンタのお目付役にも就任しているから、

なんでも彼に相談なさい。」


「美少女のお目付役が欲しかった。あるいは、26歳くらいの、、、」


「アンタは、明後日の放課後までに私に結論を伝えなさい。

ムータロウ=トロールを捕まえる作戦に加わるなら、イエスを。

断るなら、ノーを。

ノーを選んだ場合、もといたアンタの部屋にすぐに返してあげる。

アンタは、もとの日常に戻るの。

冒険を拒んだものの生きるべき日常へ帰っていく。

その生き方を否定はしない。

自分で結論をだしなさい。」



暖色系のLEDライトが部屋を穏やかに照らす。

紫とピンクが燃えている夕焼けが絵画のように窓にこびり付いている。


ここ数日の日常、それは、生まれて初めて飲んだクリームソーダのような感触を俺にもたらしていた。

時間が経てばそれは、ひどくつまらなく憎たらしい濁った存在として、飲み干されることもなく、下げられるだろう。

いま、それを躊躇なく飲み干せば、あるいは魅力的な刺激を感じることができるかもしれない。


今の時点では、レトロな喫茶店の目の前にあるクリームソーダは、美しかった。


明後日の放課後、そんな感想を俺は佐々木きょうこ

に伝えた。


答えはイエスだ。


覚悟して待ってろ。トロールとやら。



気がつくと私の車以外消えていて、テーブルに1人ポツンとしてる土曜日

これは、この間のつづきである


いつの何のつづきだって?


忘れっぽくなっちまったんだな

でも、まあきいてくれよ。そのうち思い出すかもしれないしな。


いまは

男女混合のソフトボールの試合中

学校のグラウンドは、別のチームが使っているから、バスにのって、この市内の運動公園まで来たんだ。


味方も敵も、チーム全員が美しいフォームで

説得力にあふれたプレーをしていることに

驚きを隠せない。

多少野球の心得があった僕もまったく目立つこともない。

というか他人のプレイに対して関心がそれている印象をもつ。

次にライズボールが来ることを予測できなかった僕は三振した。


「なに鼻の下伸ばしてんの?」

「たしかに、あの女の子のボディのラインとこのフォーム。アウトカウントを1つ増やした時の喜びの笑顔。A5ランクだ。」


「あんた、そんなことのために此処にテンコウしてきたわけ?」


「どうして、ここに自分がたっているのか?それは、俺自身がいちばん解答を求めている問いだ。お前に、春の惰眠をむさぼる喜びを奪い取られたあの日からずっとな」


爽やかに汗を流したあとには、自由時間が与えられている。

勇気を出して、俺のヒット性の打球をジャンピングキャッチした可憐な女子に声をかけようとしていたところ、ここへ連れてこられた張本人に強引に拉致られ、古びた喫茶店に連れてこられた。


「アイスコーヒーふたつ。」


「おごってくれるのか?」


「これからのアンタの態度次第よ。」


「今日のカリキュラムは、もうお終い。終了に変更されたから、これから話すことをよく聞きなさい。寮に帰ってから考える時間が与えられる。一両日中に解答を出しなさい。」


水出しのアイスコーヒーとやらは、なかなかの美味だった。


次に会える機会はそう長くないうちに訪れるから心の準備をよろしく。

決して日常の中に埋没して、曖昧な答えにしがみつくことの無いように。


君たちの心のサヴァイバルに直結した話なのだからな。




時には昔の話を

真っ白な日曜日

通りに人の気配はなく

引き伸ばされた殺気の無い商店街

今とはかけ離れた感情を持ち合わせていた

女の子の名前を呼ぶのが恥ずかしかった

下の名前なんてとんでもない

一人称は様々なヴァリエーションがあった

女の子と遊ぶのが恥ずかしかった

砂場に埋めて守りたい秘密だった

色んな色の一日が待っていた

次の日の朝はまったく別の人になる

教室の前の廊下にカラフルな掲示物があった

その前では、毎朝、僕ら、新しい魂


海辺

貝殻あつめ

なめらかに磨耗したソーダ色のガラス

砂浜

風が横から吹いている

海の記憶を

海辺で見上げた10月の空の記憶を

真っ暗な夜空に浮かべました

恋人のいない街は

なんども思い出す海辺のように

波に繰り返しおどらされる