時には昔の話を

真っ白な日曜日

通りに人の気配はなく

引き伸ばされた殺気の無い商店街

今とはかけ離れた感情を持ち合わせていた

女の子の名前を呼ぶのが恥ずかしかった

下の名前なんてとんでもない

一人称は様々なヴァリエーションがあった

女の子と遊ぶのが恥ずかしかった

砂場に埋めて守りたい秘密だった

色んな色の一日が待っていた

次の日の朝はまったく別の人になる

教室の前の廊下にカラフルな掲示物があった

その前では、毎朝、僕ら、新しい魂


会いたかった少女

いろいろな横顔が目に入り

軽やかな気持ち


月日の積み重なりというものが

なんらかの意味をもつというのなら

それなら

こんな赤いソファに腰掛けた時にそれは

訪れるだろう


当時は当たり前の風景でまるで進む気のない

空気を感じていた


今では

なかなか機会をつからなければ

遠ざかっていく風景


街の景色も変わり、でも


知らない店員さんがコンポの再生ボタンを押すと

サニーデイの東京のアルバムが流れたり、

なんどか遭遇した停電も

なにかを蘇らせる


丸ノ内線のとある駅で下車


目的の喫茶店までの一本の道を歩くと

意外と距離があることに気づく


それなりに色々なことがあったことが

確かめられる


もういいかい?隠れても

もういいよ


わらわなくなった彼女

喋らなくなった

6月の黒い雲がやってきて

雨がながれている

美しすぎる白さ

あんなに穏やかだった季節は

暗いやみに閉ざされ

また別の面影が現れる

ある雨の日

流れる

帰って来たような感覚

静かな部屋に

また、わたしとあなた

線路沿い

踏み切りでたちどまる

誰かの怒りが空に影を落とす

雷はならない

まだ梅雨明けではないから


図書カード

5月の半ば頃だったと思う

朝だったか昼だったか夜だったか

あるセリフが聞こえてきた。

「地球外生命体なんて別に珍しくもないしさ」

頭の中で違和感があったことに気づいたのは別の日の放課後になってからで

別に振り向くこともなかった

図書室の前にいた。

図書カードに初めて名前を記入した。

今の時代にこのようなアナログな代物が生き残っていること。

そこが全ての入り口で、並行世界へ吸い込まれていく。

正門から真正面の2階に位置する図書室の窓からは道路が見える

緑色をかすめる学生たちの影がみえる。

ある仕事を頼まれたが、やり方も分からないので、

本を枕にして横目で窓の外を眺める

「行ってかまわない。彼女に害意はない。むしろあなたの役に立ちたいと考えていると推測する。」

「俺もそう思っていたよ。」

まだパズルのピースがそろってない。

面子が足りなすぎる。

肝心の存在がまだいない。

胸を躍らせてくれる唯一の存在が。

「もう少し一人にしておいてくれ。動き出すのにまだ時間がかかる。」

なんの返事も聞こえなかったが、気配が消えたのが分かった。

もう少しここで、緑を眺め続ける。

クリーム色のカーテンが風に泳がされていた。

 

 

 

亡き王女

ぬるくぼんやりとした薄く淡く生暖かい教室の中を思い出だしていた。

キラキラと瞳に撃ち抜かれる日、緑も燃えるようににじんでいた。

「今日という日が終わる前に一緒に食事でもしないかな。」

僕は、彼を食事に誘った。

「東京を出た方がいい。」

「新しい外国のような街へ行って、そこで再びコーヒーをいれるんだね。」

「そう。雨、降りだしたみたいだね。」

七月が終わる日。新しい旅立ちの前日だった。

「最後にテレビであれを見ていこう。撮りためたやつがあるんだ。」

鉛に足を取り込まれてもいつか抜け出せるチャンスが来る。

「このリアルな街の道の描写を忘れないでいておくれ。」

「忘れないでおこう。」

「新しい街で素敵な女の子に出会えるといいね。」

「そのために行くわけじゃない。動きが遅くなってきてつまんなくなってきたから

頭をしゃっきりさせるために行くんだ。」

スパゲッティをくるくる巻き、口にそれを運ぶと良く租借し、彼は何気ない顔でいった。

「雲の切れ間からピンクの月がのぞいていた。それは夜明けだった。公園でふとそのきになって旅立つことに決めたんだ。」

「僕のアドバイスにしたがったわけではないな?」

「ちがう。」

「OK。よろしい。あたらしい世界の始まり。うん。何年か前にネット上の知り合いに会いにそこへ行ったときは新鮮だった。君も新鮮な場所で新たな出発だ。そしてそこで、大切な何かをつかみとり、それを夢へつなげる。」

「またな。」

「恋人が待っているから先に帰る。」

テレビで見た映像を思い起こしながら、車で帰るべき場所へ。

素敵なコーヒーを淹れられるやつはなんにんかいる。

収まるべき空間にしっくりとなじみ、太い見事な柱と立派な時計を背にお客さんを向かい入れる。

僕はなぜか若返り冬のコート姿で僕のことを好きな女の子と過ごし、時々コーヒーを飲む。