夏めいた記憶

日常を切り取るということは

どういうことなのか?

それは、記憶とどこが違うのか?


車の後部座席にいる。

夜の街並みが流れ過ぎて消えていく。


「何も見つからなかったぞ。レポートにそう書くぞ。」


石動は助手席に乗っている。


「あなたは、かの妖精と真摯に向かいあっています。無為に時間を潰していたわけでない。

佐々木さんには、僕からしっかりとお伝えさせていただきます。真面目なあなたの態度に心を打たれた今日という1日が最後にひとすじの幸福をもたらすこともあるかもしれません。」


運転している女性は、石動の知り合いらしい。今日いちにち彼女と口を聞くことはなかった。

なんとなく、話しかけることが不適切な行為のように思われたからだ。


シートにもたれていると

少しの間眠りに落ち、夢を見たようだ。

火災が起きている現場を鳥になって俯瞰している、心地の悪い夢だった。


「では、また明日、学校で」


食事は済んでいて、ベッドに迎えられると再びすぐに眠りがやってきた。


「夏までまっていろ」

声が聞こえる


「夏までの季節は無駄そのものだ。」


灰色に塗りつぶされて酸素を取り込めなくなっていくような気がして仕方がない


これは夢をなのだ

安心しろ。目を覚ませば。変わらない朝が来る。昨日と代わり映えのない今日だ。