孤独はファンタジー
20代の頃、夜の窓を眺めながら、虚ろな気持ちで聞き流していた音楽が、気になりふっと口をつく。
裸で、草をむしる、孤独はファンタジー
今のままでいい
今のままでいい
棚を漁り、引っ張り出してみると
なんと、その曲にタイトルなどなかった。
そもそも、アルバムの20以上の曲すべてにタイトルがついていなかった。
歌っている男の名前だけが書いてあり
青空のなかに、笑顔でたっている男がいるだけであり、雲などなかった。
夜も夕暮れも昼も、その音楽はただ透き通っていた。
助手席の彼女には、お経にしか聞こえず、それはかつての自分とあまりかわらないが
いま、音楽は空気のように身体に入ってきた
いまのままでいい
裏声でギターを弾く、あこがれのアーティストの実家の二階で、録音されたのだと書いてある
僕を導いていたその音楽家は、彼のことを、草むらのなかで見つけたステキな昆虫だと
記している
天才がいたのだと
空気を吸うように
心をあらわしている
歌声は空に吸い込まれていく
天才で狂っている
突き抜けるような青さは、日常のどこにもいない
いまのままでいい
孤独はファンタジー